どうなる医療分野のIT化
第7回 (08/3/10)
情報化の組織的対応が課題に
病院など施設のIT化が進めば進むほど、組織的な欠点が浮き彫りになっている。一般企業と同様に「CIO(情報担当責任者)またはIT部門があまりにも少な過ぎること」だ。大学病院などIT化に積極的な施設以外は「いない」といっても過言ではない。
専門IT担当者の不在
医療用機器の進化が著しい反面院内の情報システムの導入は遅れている |
一般的な病院でIT担当者と言えば、理事長や理事、医事課のITに詳しい人または医師などが兼務することになり、戦略的なシステム構築ができない。「電子カルテを導入します」とある医師が言えば、システムを提案・構築するのはITベンダーで、それを運用するのもITベンダーだ。それはいいとしても、何のためにシステムを導入して、どのように医療現場に生かすかという「病院でITを活かすための」要求仕様が描かれていないことが多い。
さらに、システムの運用でもどれだけ要員が必要で、どのような改修が可能かなどコスト面からも適切な指示を出せる担当者がいない。つまり、ITのライフサイクルに沿って高度利用する仕組みができていないのだ。
保健医療福祉情報システム工業会(JAHIS)は、そうした現状から少しでも意識を高めてもらおうと、「ITをよりよく使うパンフレットなどを作成し医学会総会他の展博で配布する活動なども行っている」と戦略企画部の野々村辰彦部長はいう。医療関係者には「保守という付加価値にコストをかける考えがない」こともあり、IT化は進んでも、ITの高度利用という面で進んでいないのが現状のようだ。
ポイントは、患者の治療や健康管理にITを道具として使えているかどうかだろう。「大学などの医学系教育現場でITの活用を教えていないことも医療現場で高度利用が進まない要因の一つではないか」と見ている。ただし、「需要の中で一歩ずつIT活用意識が進んでいくことが大切であって、一足飛びに高度化を唱えても失敗する」と指摘する。
ITベンダーが頼みの綱
それではITベンダーが全体を最適に動かす俯瞰的な取組みを支援すればいいのではないか。医師の中にはITに非常に詳しい先生もいるが、本業はあくまで医師なのだ。システム化から全体最適化、セキュリティ対策、リスクマネージメントなど医業以外でかかわるIT関連作業は多い。
地域医療が実現するには、そうしたIT関連技術をベースにその上にアプリケーションが乗り、データが共有されるという仕組み作りが欠かせない。個々の病院が持つシステムを病院間で連携するための最低限必要な標準化作業は「実際にどの部分を標準化すればいいかを整備しているところ」と篠田英範標準化推進部長はいう。
一方でIT化が進んだことで医師や検査技師、レントゲン技師、看護師など専門職に携わる人たちがIT統制に直面する状況が生まれてきた。個人情報保護などで「これまでのようにカルテを記述してそれを保管するだけでは済まない」ことになる。
IT化は医療現場や患者に多くのメリットをもたらすが、IT化の目的、システムの正しい運用、標準化技術の採用、リスクマネージメントなどIT利用のバックグラウンドには非常に高度な対応が求められていることが分かる。ここはやはりITベンダーの支援が欠かせないのだ。
(第7回終了)
第8回 「発展途上のうちに標準化推進を」に続く