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連載 「ITスキルの向上を目指して」
株式会社スキルスタンダード研究所 代表取締役
特定非営利活動法人 ITSSユーザー協会 専務理事
高橋秀典
第2回
活用サイドから見たバージョン2
さらに使いやすくなってITSS V2登場!4月1日にITSS V2が公開された。それを受けて4月13日に、ITSSユーザー協会主催でIPA(独立行政法人 情報処理推進機構)ITスキル標準センターから講師を招いて、本邦初「ITSS V2セミナー」が開催された。150名の定員があっという間に一杯になり、申し込み遅れた方から、何とか入れないかという電話が何本もあった位の大盛況だった。聞かれた方は、ITSS V2の良さを実感されたと思う。今回はそれをさらにシンプルに活用サイドから捉えてみる。
バージョンアップにいたる経緯について
昨年前半はIPA主催で「ITプロフェッショナル育成協議会」が開催され、約20名ほどの委員と経済産業省・IPAのオブザーバで、旧バージョンのITSS V1.1について議論し、方向性や活動方針を定めた。私も委員として参画していたが、今回のV2のリリース計画や先に発行された「経営者向け概説書」などの計画もこの場で決まった。それを受けて昨年後半から3月末までIPA主催で「ITスキル標準改訂委員会」が開催された。前回と違って今回はそれぞれのプロフェッショナルコミュニティの代表者や、ITSSをよく理解している委員で構成された。もちろん、私も委員として引き続き参画した。
ほぼバージョンアップされずに3年以上経って、ITSSに関してやや停滞状況に陥っており、ここでいいものを出せないと興味を持っている企業や個人が離れて行ってしまうのではないかというタイミングであったと言える。ITSSの企業導入を経験した方は委員の中におらず、ともすれば提供側の話に偏ってしまう危険があると思い、どうすれば活用サイドの立場に立ったものができるか、という1点のみに集中して意見を出してきた。
旧バージョンとITSS V2の違い 「スキル熟達度」と「達成度指標」
旧バージョンでは、「スキル熟達度」と「達成度指標」の双方がスキルのように受け取れ、うまく切り分けができていなかった。同じような言葉や数字が両方に登場して、何をどう理解すればいいか分からず混乱するという意見もよく聞いた。
今回はっきりしたのが、スキルは「スキル熟達度」で定義されており、エンジニアがそのスキルを使って仕事をし、その成果を貢献度により評価する指標が「達成度指標」ということだ。以前から説明をしている以下の内容が、V2ではっきりしている。
「スキル熟達度」
- 仕事(タスク)を実行するために必要な能力定義
- 個人が、それをどのくらい保持しているかを示す度合い
- ITSSでは共通部分を定義してあり、企業で活用するにはビジネスモデルに合った形で選択、追加することが必要
- ツールや試験などでの判定が可能
「達成度指標」
- ビジネス目標達成に、どのくらい貢献したかを評価する指標
- 成果をビジネス貢献とプロフェッショナル貢献の2つの視点で評価
- ビジネス貢献は責任性、複雑性、サイズで構成され、責任性の下に複雑性とサイズが位置付き、責任分野と役割を明確にした上で、ビジネスへの直接成果を明確化
- プロフェッショナル貢献は、執筆や社会貢献などプロとしての公の活動を評価
- ツールや試験などでは評価困難で、上位者の面談などによるアセスメントを含めた評価プロセスのデザインが必要
仕事をするためのスキルと、成果の評価指標がITSSとして定義されていることになるが、仕事をするために必要なスキルを持っていても、貢献したりいい成果を出せるとは限らない。仕事を遂行する能力が必要である。一般的には、これがコンピテンシーやヒューマンスキルと呼ばれている。そのコンピテンシーは、共通化の困難さからV2の範囲から外すと明言されている。
コンピテンシーモデル構造 |
コンピテンシーの定義は、ヒューマンスキル、コンセプチュアルスキル、実行力などと捉え、個人が持つべき能力の全体をビジネス能力とすると、ITSSとコンピテンシーの関係は右図のようになる。
このように能力を構造として組み立てていくと、仕事上どの程度のITスキルが必要か、またそれを使って仕事で成果を出していくにはどのような能力が必要かが、論理的に見えてくる。ITサービスを提供する企業でも、ITサービスを受ける側でも構造は同じで、中身が違ってくるという風に捉えれば何がどこまで必要かが明確になる。このような構造化は主流となっており、これからの企業の人材育成には欠かせない考え方となるであろう。
スキルスタンダード研究所 http://www.skills.jp/
ITSSユーザー協会 http://www.itssug.org/
著者紹介 たかはし ひでのり
1993年に日本オラクル入社。研修ビジネス責任者としてオラクルマスター制度を確立させるなど活躍。最終的にシステム・エンジニア統括・執行役員を経てオラクルを退社、2003年12月にITSSユーザー協会を設立。翌年7月スキルスタンダード研究所を設立。IT人材育成に関係する協議会の各種委員を歴任するなど、ITSSの第1人者として知られる。2006年5月にIPA賞人材育成部門受賞。
第9回 ITSSとコンピテンシー 〜解かねばならない関係とバランス
第8回 「ITスキルを身につけよう!!」
第7回 「経営戦略からIT戦略へ」〜プロジェクト成功の鍵は「ITスキル標準」〜
第6回 ユーザー企業用スキル標準登場!その4
第5回 ユーザー企業用スキル標準登場!その3
第4回 ユーザー企業用スキル標準登場!その2
第3回 ユーザー企業用スキル標準登場!その1
第2回 活用サイドから見たバージョン2
第1回 「IT」って何