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連載 「ITスキルの向上を目指して」


株式会社スキルスタンダード研究所 代表取締役
特定非営利活動法人 ITSSユーザー協会 専務理事
高橋秀典

第8回
「ITスキルを身につけよう!!」


「スキル」について考えてみよう

新聞、テレビ、雑誌などで「スキルが不足している」ということがよく話題になっている。仕事に関することが多いと見受けられるが、実際は個人個人の生い立ちや性格的なことにまで話が及ぶ場合もあるようだ。読者の皆さんは「スキルとは何か説明してください」と言われた場合に適切に答えることができるだろうか?
今回は、このように抽象的なものに思える「スキル」の捉え方について整理してみる。
まず知識とスキルの違いは次の通りとなる。

・知識
仕事でパフォーマンスを発揮するための前提
・スキル
知識を使って仕事などでパフォーマンスを発揮する能力
ただし、応用力が利く能力(利かない能力はテクニック)

さらにスキルは、次のスキル構造に分類されます。

・専門能力
仕事をする上で、前提として持っていないといけないスキル
・ヒューマンスキル(人間理解能力)
仕事で成果を出すための実行力
・コンセプチュアルスキル(概念化能力)
他者のレベルに合わせて物事を概念化・抽象化するスキル

IT系の場合、ITスキルが専門能力に当たる。また、概念化能力を分かりやすく説明すると、例えば仕事内容について部下に指示する場合と、家に帰って何も知らない家族にその内容を話すのとでは全く異なり、分かりやすい内容にしたり、例え話など用意することになる。このように相手が分かるように概念化する能力をコンセプチュアルスキルと言う。
ITスキルやコンセプチュアルスキルは、あくまで仕事をするための前提スキルであるが、ヒューマンスキルは、それらを使って実行し成果を出すためのスキルと位置づけることができる。
次の有名なカッツの関係図は、企業での役割と3つのスキルの関係を示したものです。これを見ても、実行力であるヒューマンスキルは大変重要で、役割に関係なく同じ割合で存在することが分かります。先ほどのように概念化する能力があっても伝えるためのコミュニケーション能力がないとうまくいかないわけです。それに対し、経営層に近づくにつれ専門能力の割合は減り、逆にコンセプチュアルスキルの割合は増えていきます。

カッツの能力と職位の関係図
         カッツの能力と職位の関係図

ヒューマンスキルとコンセプチュアルスキルを合わせてコンピテンシーと呼ばれるのが一般的だ。専門能力だけがあっても仕事で成果は出ない。これらヒューマンスキルやコンセプチュアルスキルは、仕事を進める上だけでなく、人格形成上とても大切な要素となる。

ヒューマンスキル(人間理解力)

仕事は人を通して展開される。したがってヒューマンスキルは重要であり、立場や役割が変化してもその重要度は変わらない。キャリア開発の実践時の鍵であるとも言える。
次に列挙してあるのは、ヒューマンスキルの代表的なものである。
・ コミュニケーション・スキル
アクティブリスニング(受信)、アサーション(発信)
上司が私を分かってくれない←上司に分かるように伝えたか
(伝えたこと/伝わったことの違い)
・ プレゼンテーション・スキル
・ ネゴシエーション・スキル
・ アサーション・スキル
・ リーダーシップ・スキル
・ コーチング・スキル
・ カウンセリング・スキル
・ 人脈形成力
・ 人脈活用力
・ 対人影響力
・ 人材活用力
・ 関係構築力
・ 人材育成力
・ ファシリテイト、コーディネイト力

コンセプチュアルスキル(概念化能力)

具体的なものを抽象化する能力であり、1を聞いて10を知る洞察力もこの一つだ。
抽象的で概念的な話を聞くと何のことか分からなくなってしまうのは、この能力が不足していることになる。また、他の職場で通用しない、他の会社で通用しないのが、典型的なコンセプチュアルスキル不足の人材だと言える。
・ 戦略的思考力
・ 情報感度
・ 情報収集力
・ 発信力
・ 全体把握力
・ 状況把握力
・ 将来予想力
・ 将来予備力
・ 構想力
・ 先見性
・ 確実性
・ 具現化力
・ 戦略具現化力
・ 戦略立案力
・ 計画立案力
・ 課題認識力
・ 課題把握力
・ 課題設定力
・ 行動力
・ 推進力
・ 洞察力
・ 創造力
・ 発想力
・ 探求力
・ 探索力
・ 解決力
・ 統括力(広範囲にコントロールする力)
・ 判断・意思決定力
・ 推進力(確実さ)
・ 推進力(力強さ)

このように分類されたものを一つひとつ見ていくと、自分に何ができて何が不足しているかが明らかになる。他者を指導する場合も同様で、このような観点は大変有用であり、見える化の第一歩となる考え方である。
これらを見て、ITSSやUISSはごく一部のパーツであることが理解できる。だから、ITSS導入はあくまで手段であり目的ではないということになる。導入する企業自身が頭を使って自社の人材モデルを組立てるための1要素だということを忘れてはならない。


■お知らせ

当コーナーの執筆者 高橋秀典氏の著書「ITエンジニアのための【ITSS V2】がわかる本」が、9月21日に翔泳社から「わかる本シリーズ」の最新刊として発売されました。ITスキル標準V2をテーマにした最初の書籍として著されたもので、ITスキル標準V2の概要から具体的な導入方法、活用の仕方、ITスキル標準を導入している企業の事例などを、ITスキル標準の第一人者として知られる高橋氏の豊富な経験を元に、わかりやすく解説した必見の書です。

高橋氏著書画像主な内容
第1章 ITSS V2 について
第2章 組織におけるITSS活用
第3章 個人におけるITSS活用
第4章 認定制度との関係
付録A  ITSS入門
付録B  ITSSを理解するための手段
発売:翔泳社
価格:\2,940
発売日:2006年9月21日
サイズ:A5判
ページ数:264
著者:高橋秀典


スキルスタンダード研究所 http://www.skills.jp/
ITSSユーザー協会 http://www.itssug.org/

著者紹介 たかはし ひでのり高橋氏画像
1993年に日本オラクル入社。研修ビジネス責任者としてオラクルマスター制度を確立させるなど活躍。最終的にシステム・エンジニア統括・執行役員を経てオラクルを退社、2003年12月にITSSユーザー協会を設立。翌年7月スキルスタンダード研究所を設立。IT人材育成に関係する協議会の各種委員を歴任するなど、ITSSの第1人者として知られる。2006年5月にIPA賞人材育成部門受賞。

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