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連載 「ITスキルの向上を目指して」


株式会社スキルスタンダード研究所 代表取締役
特定非営利活動法人 ITSSユーザー協会 専務理事
高橋秀典

第9回
ITSSとコンピテンシー 〜解かねばならない関係とバランス


 言い尽くされているが、ITSSは共通化された辞書であり参照も出るである。どのように使うかはそれぞれの考え方によるが、導入のための手順はその構造から、また人材像(目標人材モデル)を作るという意味からも、ある程度限定されてくる。そしてその目標人材モデルは、スキルで人材像を表したものなので、必ずヒューマンスキルやコンセプチュアルスキル、また業界、業務知識などITSSには定義されていないものも必要になってくる。


ITSS/UISS導入コンサルティングでの新たな認識


 ITSSに関わって4年以上経つが、この2年はITSS/UISS導入コンサルティングのビジネスを主体にして、ITSSユーザー協会はボランティアで進めた。
ITSS導入コンサルティングを提供したのは、ファイザー、リクルート、サイバード、CTC、テンプスタッフテクノロジー、オムロンソフトウェア、YDC、ヤンセンファーマ、日本コンピュータコンサルタントなどだ。今後もコンサルティングを継続する企業もあるし、新たに数社がスタートする。これらの企業へのITSS/UISS導入は、単にITSSやUISSフレームワークのみを使用してスキル診断するというような次のステップが無いものではなく、To-Beを捉えた本格的なもので、様々な局面で導入事例として取り上げられている。
これら導入コンサルティングを進めて行く中で、必ず課題として出て来るのが、一般的にはコンピテンシーと呼ばれているヒューマンスキルやコンセプチュアルスキルである。スキル標準は辞書的要素が強いが、企業で必要なのは「人材像(目標人材モデル)」である。
この「目標人材モデル」にはITスキルも必要だし、コンピテンシー系も必要になってくる。ITSSやUISSにはコンピテンシー系は殆ど定義されていないので、人材像として定義して行くには、これらを追加して行くことになる。
企業の「目標人材モデル」にとって重要な構成要素「コンピテンシー」
ITSSやUISSはもともと標準化された辞書、言い換えれば共通的に使えるIT系スキルや、評価指標をまとめたものだ。経済産業省で定義されたレベルの相場観で言うと、ITSSの「レベル7」は島津製作所の田中氏であり、日本に何人もいない存在である。そのような特別な方を表現できるスキル群も定義されているものであり、なぜならITSSは辞書であり参照モデルだからである。だからその辞書をそのまま企業に取り込んでも現実感が殆どない。
 職種専門分野を表すITSSフレームワークについても、あくまで標準としての役割を表現しているだけであり、それぞれビジネス形態の異なる企業に、そのままの形で取り込んでも「ビジネス目標達成のために貢献する人材」を表現できない。あくまで企業間の調達や個人がITエリアでどのような価値があるか、という認識で使うものだ。各企業の人材育成で必要なフレームワークは、ビジネスモデルに合った職種なり専門分野を持った独自のものということになる。目的ごとに活用方法が異なることを認識する必要がある。
また一方で、ITSSキャリアフレームワークで企業価値を知るための企業間比較をできると信じて実施していた企業が、「果たしてビジネスモデルの異なる企業を同じ枠にはめて比較すること自体に意味があるのか?」と思い始めている。比較はあくまで手段であり目的ではないことに気がついたとも言える。あるべき姿、ゴールを設定しないと現状をいくら分析しても、次のステップが無いということに、もう気づくタイミングである。
また、ITスキルの定義そのものは、誰が見ても同じ理解ができるようになっていないと意味がない。それに対して「目標人材モデル」のもうひとつの構成要素であるコンピテンシーは、企業の特色を表現できるものであり、経営者のDNAを後進に伝えて行くためのものでもある。企業独自の単語が入っている場合が多いのもそのためだと言える。


人材に課する要件について

 著名な心理学者、及び人材開発に関わる方々の見解によると、人材に関する要件は以下の3層に分かれる。
・ 第1層
自分が相手にこれだけのことをすれば、必ず相手もこれだけのことを返してくれると信じる感情(心理学ではベーシックトラストと呼ばれる)
就職するまでに固まり幼児期の体験で決まる、元来変えられないもの。
・ 第2層
思考特性や行動特性を表し、<好奇心→チャレンジ→認知>のサイクルのことである。このサイクルがうまくいかないことが続くと、チャレンジを避けるようになる。
30〜35歳のビジネスマンの最初の10年で固まり、以後変えにくい。
・ 第3層
経験や知識で蓄積されて行く特定分野の具体的能力、知識やノウハウなど。

 この内容で考えると、本来重要なのは第2階層であり、言い換えると自分自身の中でPDCAまわせる人材を登用したり、育成するというのがあるべき姿である。ところが、一般的には第3層だけを見て採用(調達)や評価をしているケースが多いように見える。好奇心やチャレンジ精神が旺盛な人は、第3層の特定分野の知識やノウハウを自分自身でキャッチアップして行く能力を持つ。それにかかる時間だけの問題である。
ユニクロのファーストリティリングは、採用の際に自分でPDCAをまわした経験を持つ人かどうかを確認し、その経験の無い人は選択基準から外れるという考え方を持っていると聞いている。
このように、如何に第2層が優れている人を見分けるか、その能力を伸ばして行くような環境を作れるか、ということが「ビジネス目標の達成に貢献する」人材を育成するかが、企業にとって重要かということだろう。

         人材育成のPlan-Do-Check-Action
人材育成のPDCA図


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発売日:2006年9月21日
サイズ:A5判
ページ数:264
著者:高橋秀典


スキルスタンダード研究所 http://www.skills.jp/
ITSSユーザー協会 http://www.itssug.org/

著者紹介 たかはし ひでのり高橋氏画像
1993年に日本オラクル入社。研修ビジネス責任者としてオラクルマスター制度を確立させるなど活躍。最終的にシステム・エンジニア統括・執行役員を経てオラクルを退社、2003年12月にITSSユーザー協会を設立。翌年7月スキルスタンダード研究所を設立。IT人材育成に関係する協議会の各種委員を歴任するなど、ITSSの第1人者として知られる。2006年5月にIPA賞人材育成部門受賞。

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