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連載 「ITスキルの向上を目指して」


株式会社スキルスタンダード研究所 代表取締役
特定非営利活動法人 ITSSユーザー協会 専務理事
高橋秀典

第1回
「IT」って何

 今やIT(Information Technology)という単語は、日常で違和感無く使われている。
 ただし、一般的にはどうもIT=パソコンというイメージが強いようだ。
 コンピュータが普通に企業で使われだしたのは40年近く前だが、その頃は「メインフレーム」と呼ばれる高価なコンピュータが使われており、人が行なっている業務をコンピュータに乗せて、早くミスなく処理をさせることが主たる目的であった。企業では、担当者がそのコンピュータに接続されている端末を操作して、業務処理するなどという姿で、個人の趣味や調べ物などに使うような考え方は全くなかった。その後90年初頭には、その「メインフレーム」を「サーバ」と呼ばれる小型のコンピュータ何台かに置き換え、それぞれが「クライアント」と呼ばれる複数の端末を持つ形態の「クライアント・サーバ型」システムが主流となり、分散処理化が進んだ。しかし同じ頃、個人を対象とした「インターネット」が登場し、徐々にその位置づけを明確にして行った。90年代半ばから後半にかけて「クライアント・サーバ」の分散型は陰を潜め、誰でもどこからでもパソコンがあれば様々な検索が可能な「インターネット」型が、主流になってきた。それに関連して電子メールの普及も進み、今までの電話やファックスなどの通信手段に取って代わり、威力を発揮してくるようになった。また企業での業務システムもインターネットを使う方式が一般化して、どんなソフトウェアであっても見た目は同じような形式で作られるようになってきた。今までコンピュータ上で稼動するシステムは、企業の中で、しかも独自の使い方でクローズされたものだったが、そうでは無くなってきたわけである。政府もe-Japan構想で「IT」化を唱え、それらが渾然一体となってIT=パソコンというイメージにつながっているようだが、本当はパソコンは手段であって、インターネット&メールの普及がその裏にあるわけである。

ITサービス企業の状況

 

では、これだけ一般化してきた「IT」のサービス提供側の状況はどうだろうか。よくTVなどでも話題になっている中国を例にとってみよう。IT系の大学は大変狭き門で、しかも必要な学費が平均的な所帯の年収の4、5倍くらいかかるそうである。しかし、卒業すれば他に比べて5、6倍の給料が約束されている。彼らはエリートなのである。また産官学が協調しての育成システムも出来上がっている。日本語も普通にしゃべれる技術者が多くその方が給料も高い。あきらかにターゲットは日本である。それに対し、日本では現在IT関連企業が全国で8000社以上あり、IT技術者は56、7万人いると言われている。他の業界に比べて大変多い数だといえる。自動車業界は、金融は、流通はと色々比較してもその差は歴然である。これは技術者を用意すればお金になるITバブルの結果とも言えるだろう。それが通用する期間が大変長く続き、その間企業はIT技術者の育成を怠り、人口だけ増えていくという状況に甘んじてきた。しっかりとトレーニングを受けずに、OJTと称して現場に出され、縦割り作業の中で全体像が分からず、作業することが目的で仕事をこなしていく状況であったと言える。そのような中で育った技術者が、後進を育成することになり、その結果は容易に予想できる。また「IT」というキーワードだけで、向いていないのにこの業界に入った方が多いのも特徴である。しかも中国の技術者の単価は、日本の技術者に比べてまだ4分の1程度である。経営者やエンドユーザーは、日本人か中国人のどちらを選ぶだろうか。中国の後にはインド、ベトナム、マレーシアが控えており、日本のIT業界、IT技術者は危機的な状況のはずだが、当の本人達はあまり危機感を持っているようには見えない。現在「IT」を勉強して仕事もその方向に行きたいと希望する学生はめっきり減っている。花形だった時期を知っているので、それほど魅力が無い業界になってしまったのかと不安になるような話しである。頭のいい日本人がどうしてこのように遅れを取って、しかもそれを取り返そうとする気配さえ見えないのは不思議な状況である。
  現在はIT業界内の現象であるが、2007年問題もあり技術の継承の問題が指摘されている。遅かれ早かれ他の業界にも何らかの影響が出てくるものと思われる。この状況を範として、早め目に手を打っていくことを考える必要があるのは確かである。

■お知らせ

  当コーナーの執筆者 高橋秀典氏の著書「ITエンジニアのための【ITSS V2】がわかる本」が、9月21日に翔泳社から「わかる本シリーズ」の最新刊として発売されます。ITスキル標準V2をテーマにした最初の書籍として著されたもので、ITスキル標準V2の概要から具体的な導入方法、活用の仕方、ITスキル標準を導入している企業の事例などを、ITスキル標準の第一人者として知られる高橋氏の豊富な経験を元に、わかりやすく解説した必見の書です。

主な内容
  第1章 ITSS V2 について
  第2章 組織におけるITSS活用
  第3章 個人におけるITSS活用
  第4章 認定制度との関係
  付録A  ITSS入門
  付録B  ITSSを理解するための手段
  発売:翔泳社
  価格:\2,940
  発売日:2006年9月21日
  サイズ:A5判
  ページ数:264
  著者:高橋秀典



  スキルスタンダード研究所 http://www.skills.jp/
  ITSSユーザー協会 http://www.itssug.org/

  著者紹介 たかはし ひでのり
1993年に日本オラクル入社。研修ビジネス責任者としてオラクルマスター制度を確立させるなど活躍。最終的にシステム・エンジニア統括・執行役員を経てオラクルを退社、2003年12月にITSSユーザー協会を設立。翌年7月スキルスタンダード研究所を設立。IT人材育成に関係する協議会の各種委員を歴任するなど、ITSSの第1人者として知られる。2006年5月にIPA賞人材育成部門受賞。

 

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