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輝けITベンチャー


第4回
潟iレッジクリエーション
  視覚障害者の視点でビジネスパートナーと製品開発

 ナレッジクリエーションは、視覚障害者の視点とビジネスパートナーとのコラボレーションによるユニバーサルデザイン・バリアフリーデザインの製品開発と新たなサービスを目的に会社を設立した。新城直社長は「ユニバーサルデザインの理念を基調とした、創知思考型の会社づくりを目指す」という。会社設立の動機となったのは、15年位前にタウ技研(現在のIRIユビテック)を訪問し「OCRソフトを作りませんか」と提案した原田さんとの出会いだった。当時、紙文書をスキャナーで読み、OCRで文字データに変換し、データベース(DB)化するソフトはよく売れた。「これをPCで音声化すれば視覚障害者に使えるようになる。必要な技術は視覚障害者ばかりでなく、高齢者や健常者などにも有効で、企業には技術力、競争力をもたらすことになる」と考えた。DOSの時代はパターン認識技術で変換するなど技術的に難しかったが、ウインドウズでは当たり前になった。新城社長の写真

「IRIユビテックの荻野社長(現在)に話をして、10%の出資を頂き、90%は新城社長が出資、原田さんは転籍という形で、創業することにした」という。

 販売している製品は、点字専用キーボード「ブレッキー」、音声合成ソフト「VoiceTEXT(ボイステキスト)」、ナレーション作成ソフト「SpeechMaker(スピーチメーカー)」がある。ブレッキーは、矢崎総業が開発、製造した製品で、USB標準キーボードに準拠し、点字の入力だけでなく、ショートカット時のキーの同時押しも考慮してキー配列を決定した。操作キーは37個、ファンクションキー12個(F1〜F12)、機能キー15個、特殊キー4個で構成されている。「このキーボードでワードもエクセルも入力できる」という。

 人間の声に近い自然な音声を実現

 VoiceTEXTとSpeechMakerはペンタックスが開発した製品で、人間の声に近い自然な音質、イントネーションと正確な発音で文字を音声に変換してくれる。日本語、英語、中国語、韓国語をサポート、VoiceTEXTはさらに日本語と英語は男声、女声、中国語は女声、韓国語は男声2種類、女性4種類と豊富な音声バリエーションがある。SpeechMakerで作成するナレーションの読み上げには、ペンタックス音声合成ソフトVoiceTEXTを採用している。VoiceTEXTの適用分野は、チケット予約、天気予報、株式情報、コールセンター、災害自動通報など多岐にわたることから、同社はこのソフトを「積極的に販売したい」という。例えば、ユビキタス社会の到来で、この音声ツールとICタグを組み合せるといろいろと便利になる。本当に必要な人だけに情報を送り、必要ない人には聞こえない仕組みを作れば利用が拡大する。

 新城直社長は15歳で失明している。中学までは普通校だったが、81年から2年間、長野の盲学校、83年からは出身校の横浜市立盲学校に勤務し按摩、マッサージ、針、灸など職業教育に通算で24年間携わった。失明して分かったことだが、「視覚障害者の社会参加や就職に壁があった」という。大学も点字で受験できる大学は少なかった。

 パソコンや携帯電話などが出まわっても、視覚障害者に使えるものは少なく、録音や対面朗読など自分以外の人に読んでもらうなどしなければ必要な情報は得られなかった。しかし、パソコンを利用して独力で漢字、カナ混じりの字を読めたり、書けたりできるようになれば社会参加ができる。パソコンを視覚障害者に使いやすくすることの必要性を感じ、教師の仕事をしながらメーカーに提案してきた。一番大きな成果は、NTTドコモの 「らくらくホン」で、「弱視の立場で文字を大きくしたり、コントラストを変えて画面を見やすくしたり、音声のスピード、イントネーションなどアンケート調査をしながらニーズを伝えた。「これでらくらくホンは相当売れた」という。

 ユニバーサルデザインの重要性を痛感

 一方では、本当に視覚障害者に使い易いものを一緒に作りましょうとメーカーに提案したが、参考意見として聞いてはくれたものの、採算性が最大のネックとなり製品化が進まなかった。「誰にでも使い易いユニバーサルデザインの考え方と製品化のギャップを痛感させられた」という。このように様々な会社と関わっているうちに、教師との両立に限界が見えてきて、「2足のわらじは無理」なことが分かった。「自分の障害をメリットにしよう。むしろ活かせるのではないか」と逆転の発想が会社設立のきっかけになった。
 「障害者に使いやすいものを作れば、健常者にも使いやすいものを提案できるのではないか」というのが信念だが、創業は「挑戦だった」という。「障害者の視点で物作りを提案すれば、人に優しい、多くの人に使い易いものが作れる。ビジネスになり、利益が上げられる」と今後の事業展開に期待をかけている。

《企業データ》
潟iレッジクリエーション
2005年10月設立
資本金3800万円
代表取締役社長  新城 直(しんじょう すなお)
神奈川県横浜市西区高島2−6−38
URL:http//www.knowlec.com/