どうなる医療分野のIT化

第5回 (08/3/10)

個別推進がもたらす弊害多く

 医療システムで使用する病名や医薬品名、用語、コード名などが標準化されるにつれ、システム連携の輪が広がることになり、地域医療や広域医療、患者の生涯医療などに結びつく。また、EBM(エビデンスベース・メディシン=根拠に基づいた医療)を支援する体制の整備にもつながる。

 導入のばらつき目立つ

 それでは情報システム間の連携はどうだろうか。現在の医療関蓮のIT化は病院や施設で単独に進んでいることが多く、「ある病院は最新施設を導入しているが、あるところは数世代前のシステムがまだ稼働している。一方でIT化がまったく進んでいない施設も少なくない」とITベンダー関係者は施設間のIT導入のばらつきを指摘する。
  要は本当に必要なIT化は何か、IT化に予算を割けるかどうか、導入したITを有効に活用する人的・経済的基盤があるかどうかという基本的な問題が横たわっている。
  一方で大学病院などのように、IT化を病院間で競争するかのように推し進めるなど、病理研究なども含めてITの利活用を高度化させている施設もある。「こうした個別推進がもたらす弊害が医療のIT化を阻む問題になっている」という。
  厚生労働省が公表した「医療・健康・介護・福祉分野の情報化グランドデザイン」が始動しているわけだが、その中ではIT化を進めるに当っての課題とそれを解決するための施策が盛り込まれている。また、IT化がもたらす恩恵なども明らかにしている。
  現在はまだ、施策を実現のものとする現場の実態が追い付いていない状況だが、施設内の“閉じた世界”における情報化が進んできたために、医療業界全体を貫く標準化が遅れていることは多くのITベンダーが指摘している。
  医療施設にとって、データの共有を行うためにすでに構築されている既存システムを簡単に改修するわけにはいかない。システム変更に係るコストが発生するためだが、ベンダー依存のシステムが多いこともIT利活用の素地を阻んでいる。

 IT活用に逆行する処理

 病院や施設のIT化が進めば進むほど、全体最適を推進しなければいけない政府や厚生労働省が行おうとするIT化とかけ離れていくらしい。というのも、IT化でデータ送信ができるのに、レセプトやその他の申請の段階で「紙媒体に再度作り直して」審査機関に提出するという旧態依然とした処理がまだ残っていることを、ある医師は指摘している。法律や慣習が壁となって、せっかくの情報化による恩恵を一部しか受けることができないという状況を生み出している。
  e-Japan戦略やIT新改革戦略を通して医療分野のIT化は「患者中心の医療」を目指している。そこで患者中心の医療情報システムとして見た場合、他産業のIT化に比べて「大きく後れを取っている」状況が見えてくる。
  そうした課題を解決していこうと、ITベンダーが集結して標準化を含めた医療関連の情報化を支援する団体が活動している。それが「保健医療福祉情報システム工業会(JAHIS)」だ。次回はJAHISの活動を通して、様々な問題を抱える医療業界のIT化を探ってみる。


(第5回終了)

第6回 「部分最適で進むIT化」に続く

////5/////10/11/12