連載 SaaSベンダーの取組みを追う

第9回

日本IBM 体系化されたクラウド戦略 

 日本IBMは7月末に、エンタープライズ・プライベート・クラウドに続いて、新たなパブリック・クラウド・サービスを発表した。


同社が自社データセンター内に構築したサーバーやストレージといったIT資源をCPUの処理量に応じて従量制で課金する「IBMマネージド・クラウド・コンピューティング・サービス(MCCS)」として、今年10月中旬からの提供開始を予定している。


 日本IBMがクラウド領域でねらうのは、当然エンタープライズ層となる。そこで同社は「仮想化」「標準化」「自動車」の3つをエンタープライズ・クラウドの重要な要素としてあげ、これをクラウド領域における自社の強みとして打出している。


 さらに、クラウド関連サービスを体系化した「スマート・ビジネス・クラウド・ポートフォリオ」を用意、その中で提供方法としてパブリック・クラウド・サービス、プライベート・クラウド・サービス、クラウド・専用インフラ製品の3形態をあげている。


 このうち、プライベート・クラウドについては、コンサルティング・サービスや設計/構築サービスなどのメニューを3月に、インフラ製品については、7月にクラウドのためのハード、ソフト、サービスを統合した「クラウドバースト」を先行して発表している。


 日本IBMでは、昨年8月にクラウド専用の検証施設を設立、更に今年1月1日付で、新規事業を推進する社長直轄組織である未来価値創造事業にクラウド・コンピューティング事業推進を発足させクラウド・ビジネスへの取組みが本格的なものであることを内外にアピールしてきた。


 このクラウド・コンピューティング事業推進は、コアメンバーの他に各部からも人員を募って組織されており、部門横断組織として社内外に対して、クラウド・ビジネスの推進に努めている。


 同組織のコアメンバーであるストラテジー・マーケティング担当の大村佳也子氏は「多くの企業が、今回の不況を受けてできる限りのコスト削減に努めてきた。その状況の中で、更なる削減を行うためにはビジネスの仕組みを変えるしかなく、そのために多くのユーザーがビジネス改革をもたらす可能性のあるクラウド・コンピューティングに注目している」と現状を説明している。

 同氏は、「ビッグバンによるクラウド移行は実現性に乏しい。まずは、クラウド化によって目に見えるコスト削減効果が得られる部分を探し出し、そこからスモール・スタートを切るのが有効」と指摘している。
 そして、「あくまでも、クラウドの登場は、ユーザーにとってITを利用する形態の大きな選択肢がひとつ増えたと見るべきで、最終的には、レガシーのシステムとパブリック・クラウド、プライベート・クラウドが同居するハイブリッド型に落ち着くのでは」と予想している。

 

  

日本情報産業新聞2009年8月24日号

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