どうなる医療分野のIT化
第6回 (08/3/10)
部分最適で進むIT化
医療のIT化をベンダーの立場から支援する団体「保健医療福祉情報システム工業会(JAHIS)」は、コンピューターメーカーや大手SI会社を含むITサービス会社、パッケージソフトベンダー、医療関連に従事するIT関連企業など340社以上が参加する団体だ。「医療分野のIT化を推進することで、国民の保健・医療・福祉のサービス改善に寄与するのがJAHISの使命です」と運営会議の田原保議長は説明する。
医療業界への支援を
同協会は、運営会議のもと「運営幹事会」「総務会」「医事コンピュータ部会」「医療システム部会」「保健福祉システム部会」「事業推進部」が連なり、それぞれが具体的な専門活動を展開している。また運営幹事会には「戦略企画部」「標準化推進部」を置き、国際間の標準化活動も含めて活発な動きを見せている。
さらに、2011年までの中期計画目標として「日本版EHR(エレクトロニック・ヘルス・レコード)を中心とした医療ITの推進」を掲げ、基盤強化や標準化活動などを展開している。「実は保健医療福祉業界やIT業界の意識は高まっているが、利用側である国民の意識がIT化による医療の高度化による恩恵がどういうものかを意識していない恐れがあるのではないか」と分析している。
IT化がもたらす医療の効率化と高度化がどのように国民に貢献するが「本当に伝わっているか分からない」という現状もあり、そこでJAHISは、医療関連団体や医療機関などの支援に加え、利用者である国民への啓発活動を強化していく考えを示している。
病院内部のIT化はどうしても全体最適から外れた部分最適で進んでしまう。1つの総合病院に「おそらく20-30社のITベンダーが入り込んでいる」といわれるほど、様々な仕事がIT化され、それが単独で動いているのだ。
レセプトや電子カルテなどのように比較的大がかりで病院全体に及ぶものは標準化に取組みやすいが、医薬品などの在庫管理、物流や配送、看護師勤務スケジュール、食事の管理などといった単独で稼働できるシステムは「意外に多い」という。
難しい標準化への取組み
「IT化が進んで標準化が実現すれば病院も含めて医療情報分野の高度なサービスも可能となる」と標準化推進部の篠田英範部長はいうが、やはりネックになっているのはデータ連携、システム連携を可能にする標準化にあるのではないだろうか。標準化の難しさは、例えば電子カルテを見てみると、「カルテはもともとこう書かなければいけないという決まった書き方がない」というのが大前提としてある。そのまま電子化するために記述方法はそれぞれ違ってくる。システム化した後に標準仕様に移行するのは「コストがかかるし運用も大変になる」という弊害を生む。実はこのシステム再構築が問題を大きくして「IT化の阻害要因となっている」と指摘する。
つまり、標準化の本来のメリットが医療関係者にあまり伝わっていないことになる。単独導入が進む病院では、他の施設にどのようなシステムがいくらで導入され、運用コストはどの程度なのかという比較基準的な数値が見えていない。そのため、ベンダーが提案するシステムに満足するしかない。そうした部分にもJAHISは“日の目を当てて”医療関係者に提案しているところだ。
(第6回終了)
第7回 「情報化の組織的対応が課題に」に続く