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輝けITベンチャー


第8回
潟ービーフル
宮崎尚登 社長
 番号ポータビリティ制度のスタートで混沌としている携帯電話市場だが、その携帯電話で利用できるサービスは進化の一途をたどっている。ほんの数年前まで携帯電話から聞こえてくる音楽といえば「着メロ」程度だったにもかかわらず、現在は音楽を丸々ダウンロードして聴くことができるようになった。と感慨に浸る間もなく、今年4月からは、ワンセグの開始により携帯電話の画面でテレビ放送が視聴できるようになった。携帯電話のエンターテインメント分野のサービスは、すでに音声から動画にまで進化してきている。その携帯電話向け動画サービスのひとつとして注目されているのが、潟ービーフルの携帯電話向け無料動画配信サービスだ。

視聴は無料で収入は広告から

 ムービーフルは、自社のポータルサイトからさまざまなコンテンツベンダーの動画を利用者に無料で配信している。宮崎尚登社長は「携帯電話としては業界で初めて、広告収入をバックボーンに利用者には無料コンテンツとして動画配信サービスを提供する、民法テレビと同じ形態のビジネスモデルを構築した」という。その顕著な例としてあげられるのが、9月から無料配信を開始している名作映画の配信サービスだ。中には、クラーク・ゲーブル、ビビアン・リーの出演で日本でも大ヒットした往年の名作映画「風と共に去りぬ」もある。1939年に封切られたこの映画、4時間近い大作としても知られるが、「これを携帯電話で見せよう」という発想には、なかなかたどり着くものではない。常識的に考えて、携帯電話の小さな画面で4時間近い映画をだれが見ようと思うのか。

 ところが、実際には「予想よりも多くの人が、携帯電話で映画を視聴している」という。というのも、例えば通勤、通学電車内でのひまつぶしの最中に、たまたまムービーフルのポータルから「風と共に去りぬ」にたどりつき、「ちょっと見てみよう」と視聴を始めたとする。せいぜい20〜30分ほどで目的の駅に付くとすれば、4時間弱の内ほんの“さわり”しか見ていないことになる。これで終わってしまうものであれば、わざわざ“さわり”を見るためにムービーフルを利用するユーザーはいないだろう。しかし、ムービーフルは、その次の機会に映画の続きから見始めることができる。「どうやら、寝る前に続きを見ている人が多い」そうで、まるでペットボトルを1日掛けて飲む人のように、長い映画を何度にも分けて見ることのできる人が、現代は意外と多いようだ。

4時間の映画を携帯電話で見られるか

 先ほど書いたように、ムービーフルは広告収入で成り立っている。地上波放送で「視聴率」に当たるものが、インターネットでは「アクセス数」となり、アクセス数を増やすことが広告収入を増やすことにつながるのは自明の理だ。実はその角度から長尺の映画コンテンツを見た場合、これが「アクセス数稼ぎ」の強力な武器となっている。例えば、正味10分程度のPV映像を見る場合、大抵は1回のアクセスで完了してしまう。ところが、何時間にも及ぶ大作映画の場合、1回で見終わらない人が多く、続きを見るために再び訪れてくる可能性が高いので、自然ひとつのコンテンツで何倍ものアクセスを稼ぎ出すことも可能だ。9月からは、NTTドコモのiモード公式サイトになった。これもアクセス数増加の大きな力となっており、「広告媒体」としてのムービーフルの価値は着実に向上している。

新たなメディアとして成長を

 技術面では、静止画の高圧縮技術であるJpegをフレームとして記録するオープンソースの動画配信技術を採用し、携帯電話ながらスムーズな動画再生を実現している。しかし、あくまでもオープンソース技術を使ったサービスだけに、今後別の企業が新規参入してくる可能性は高いと見なければならない。参入企業が増えれば、アクセス数の過当競争の時代がやってくる。いずれ、その時代がやってくることを見越してムービーフルでは、オリジナルコンテンツの開発にも注力している。「他では見ることのできない優良なコンテンツ」これが、競争を勝ち抜くための“キラーコンテンツ”と成りえる。そのため、自社で主催する音楽イベントなども企画しており、今後は「動画配信ポータルサイトの枠に留まらない活動が必要となってくる」という。テレビよりもマーケティング能力や双方向性に優れたインターネットの強みと、携帯電話という個人向けに最も普及している最強の端末、そして独自のビジネスモデルを背景にした、「次世代メディア」としての姿が、宮崎社長の描くムービーフルの未来像だ。


宮崎社長の横顔

 ムービーフルの宮崎社長は、携帯電話やインターネット、マーケティング、果ては芸能マスコミと、実に幅広い知識と人脈を持ち、それが現在のビジネスに活かされている。そこから、宮崎社長の歩んできた非常にユニークな人生が垣間見られる。

 宮崎社長の最初の職業は、何と「アイドル」だ。その当時は、原宿の歩行者天国出身のパフォーマンス集団がレコードデビューして脚光を浴びていた時期で、そのパフォーマンス集団の仕掛け人が、新たなグループをデビューさせようと考え、宮崎社長の所属していたグループに白羽の矢が立ったという。デビュー曲は当時日本でも大人気だったジャッキー・チェン主演のカンフー映画の日本版主題歌で、白い人民服を着て踊っていた。何度かテレビの歌番組などに出演機会があったという。同期は「おニャン子クラブ」だったそうだ。

 グループとの方向性の違いから脱退した宮崎社長は、病気でしばらく休業した後、あっさりと芸能界から身を引き、一転して外資系の訪問販売会社に就職した。百科事典や英語関係の教材で有名だったその会社では、元芸能人のオーラを活かして販売員として活躍、世界一のトップセールスを記録するまでに上り詰め、今度は企画にまわされた。悪質な訪問販売が社会問題となっていた時期で、英会話教室と英語教材をセットで売っていたが、この時期に目を付けたのが「パソコン研修」、今でいうe-Learningだ。

 その後、生涯学習を謳う教育ビジネス会社を経て、自らe-Learningの仕組みを学んで身に付けた知識を活かすためゲーム会社の新規事業立ち上げに携わる。そこでは、e-Learningだけでなく、オンラインゲームの世界にもどっぷりとつかり、さまざまな企画を会社に提案する。そして、最後に考えた携帯電話を使った企画で、自ら会社を立ち上げる道を選ぶことになった。ムービーフルの誕生である。

 「結局、それぞれの会社や職業で学んだことが、何らかの形で現在に活かされている」と振り返る宮崎社長だった。


《企業データ》
株式会社 ムービーフル
2005年9月設立
資本金 34,800万円
代表取締役社長 宮崎尚登(みやざきひさと)
東京都港区芝公園1-3-5イマス御成門ビル8F
PC:http://www.moviefull-inc.com
携帯:http://mful.jp/i/