どうなる医療分野のIT化
第11回 (08/3/31)
CIOの存在が欠かせない状況に
医療関連のシステム開発を手掛けるITサービス会社は、いずれも病院側の要望の高さに悩まされているようだ。というのも医療現場のITレベルが高くなっており、技術対応が難しくなっていることが要因だという。
高まる現場のITレベル
総合病院の中でも特に大学病院でその傾向が顕著に表れている。病気などに対する研究開発が活発で、医療の高度化に伴いそれを支援する情報システムの高度化も求めているからだ。大学病院では「なかなかITベンダーが動いてくれない」という教授兼医師や、システムに詳しくなりベンダーよりもIT利活用に敏感になった先生も珍しいことではなくなった。
病院に行けば、入口には自動受診申込端末があり、受付や会計ではパソコンが職員の入力端末となって稼働している。診療室では医師が電子カルテシステムで検診履歴を確認し診察結果を入力する。病室では電子タグを使い薬品の誤使用などの医療ミスを回避するシステムが導入されている。
こうしたIT化は潤沢な予算を確保できる病院に限定されてしまうが、地域医療の高度化の観点から、地元の診療所や個人医院でもパソコンを導入するところが増加しており、ホームページを開設している医院は少なくない。医師や看護師などのITコンピタンス(活用能力)も高くならざるを得ない状況が生まれている。
医療情報システムは先進的な医師の要望を取り入れて構築されてきたわけだが、これから必須となるデータ連携に柔軟に対応できない恐れが高い。「それならWebの標準技術、例えばXMLなどを使えばいいのでは」という声もあるが、既存の院内システムを標準技術に変更しようとした場合に改修時間とコストが壁となって立ちはだかる。あるITベンダーの担当者は「大病院ほど完全リプレースのほうが工期もコストも抑えることができる」と断言する。
数少ないCIO担当
つまり、医療のIT化は、部分最適を指向する個別システムの積み上げの弊害が「高度医療の実現」を拒む要因となっているのだ。
当初から連携医療、広域医療を指向してシステム構築をしてきた病院や旧システムを刷新した病院はあるが、そうした事例はIT担当の専任医師がいることが多い。ITを病院経営の戦略的道具と位置付けて全体を構築する“CIO”がITベンダーに指示するので、そうした取り組みも進むことになる。ところが多くは「IT専門の医師はおらず、ITに関心を持っている医師が片手間で導入することが多い」という。
そのため、医療関連システムはITサービス会社にとって新規参入の難しい分野になっている。医事会計やレセプト処理、オーダーリング、電子カルテといった、一般企業の業務システムと違った取組みとノウハウが求められるからだ。病院システムに強い富士通では「電子カルテや看護師管理など業務単独型のソフトを開発して販売するのは比較的やさしい。ところが全体最適を求めるITシステムの分野になると格段に高度な技術力が求められる」という。
様々なパッケージ製品が登場して導入されているわけだが、基幹系や情報系をまとめた全体最適を指向する場合に「やはりノウハウのあるメーカーやSI会社が有利になる」ということになる。
(第11回終了)
最終回 「広域な地域医療の実現に第一歩」に続く