06 7/5 

輝けITベンチャー


第2回
イーパーセル
北野譲治社長
 インターネットの普及によってネットワークを介した情報漏えいが相次いでいる。個人情報保護法の施行からデータの扱い方や送付方法については注意を払うようになったが、依然として情報漏えいは後を絶たない。特にメールによるデータのやり取りは、盗聴や改ざんなどの危険性が高い。こうしたことから物理媒体でファイルを送る企業は少なくない。しかし、重要度の高い機密情報は運ぶ際に警備員を複数手配するなどコストがかかる。これに対してイーパーセルは、物理媒体による直接届けるという確実性とネットワークの安全性を活かして電子ファイルを決められた相手に、安全に、確実に配送する電子宅配便ASPサービス「e・パーセル(LARGE便とAUTO便)」を提供している。

 無料の電子ファイル配送システムがあるが、これらはプル型という配送方式を取っており、電子ファイルをあるサイトに置き、そこからダウンロードする形になっている。しかし、受け取り側がファイルをダウンロードしたかどうかまでは通知されない。メールやプル型のファイル配送システムの欠点は間違った相手に配送されたり、通信経路で盗み見られたり、ダウンロードに失敗すると最初からやり直すといった点だ。容量にも制限があったり、ネットワークに負荷がかかってPCの処理速度が遅くなったり、他の利用者の通信速度が急激に落ちるなど問題は多い。
 
プッシュ型の独自プロトコルを開発

 e・パーセルはプッシュ型のデータ送信サービスで、ファイルを直接相手のPCやサーバーに届け、受け取り側が受け取った通知も行う。文字通りの「電子宅配便」といえる。安全に、確実に、ファイルを届けるという極めて単純なシステムのように見えて、実は水面下では複雑な技術が動いている。
 ユーザーは専用のソフトと電子証明書を送信側と受信側のPCにダウンロードすることで即時に利用できる。ソフトには独自開発の送信専用プロトコルが使われており、ユーザーの回線の容量に関係なくデータを流し続け、途中で切れても回線がつながったポイントから再開される。送信専用プロトコルと電子証明書によってなりすましや盗聴、改ざんを防ぎ、ログを残すことで信頼性を確保している。

 現在、e・パーセルには2種類のサービスがある。一つは、製造業をはじめとしたで使われる3次元のCADデータやCAEデータなどの大容量のデータを配送する「e−LargeLARGE便」、もう一つは、ファイルそのものは大きくないが小容量の機密情報などを安全に配送する「AUTO便」だ。
 
 北野譲治社長によると「LARGE便は複数の自動車OEMメーカーをはじめ、大多数の自動車部品メーカーで通信環境の劣悪な国や地域に所在する海外の設計・開発拠点、あるいは現地サプライヤとのやりとりなどに利用されている。一方で、e−Automaiton ServiceAUTO便は、様々な企業の購買部門で数百社から数千社に及ぶ仕入先会社との受発注データのやりとりや、昨年4月の個人情報保護法の施行前からにより急速にセキュリティ意識が更に高まった銀行、証券、生損保と言った金融機関などを中心に一気に広がっている」という。

 「創業当初はメールによるファイル転送と混同されて、なぜお金を払わなければならないのかと市場の反応は冷たかった。高いセキュリティを保ちながら、データを必ず確実に届ける。確かな技術に裏付けられたものだが、派手さが無かったので提案しても伝わらず理解してもらえなかった」と販売開始当時を振り返る。ところが、大容量の設計図のデータなどを扱う自動車OEMメーカーの採用を機に、他の自動車メーカーや保険会社金融機関へとユーザーが広がって拡大していった。現在、e・パーセルの利用企業は4千社を突破しているという。

サポートいらずの運用

 外部のデータセンターを間借りし、社内にサポートセンターを併設しているが、驚くべきことに顧客からの問い合せの電話がほとんど鳴らない。「使いやすいからトラブルもない。技術力が高いからこそ為せること」と自信を持っている。

 最初に設立されたのは日本ではなく米国だった。創業者は大手メーカーで軍事用の次期対地支援戦闘機のレーダーシステムを開発のプロジェクトマネージャを経験し、MIT(マサチューセッツ工科大学)に留学していた経験を持つ現米国e−Parcel社CEOの小畑浩志氏だ。当初は米国を拠点に製品名と同様のe−Parcel社として事業を展開していたが、2001年から日本法人の設立後と同時に、すぐに本社機能を日本に移した。この時、小畑(KOBATA)氏の名前を逆から読んだ「アタボック(ATABOK)」を社名とし、当年11月に本社機能を日本に移転した。

 遊び心のある社名だったが、今年7月1日付で設立当時のイーパーセル株式会社に社名を戻した。「社名がアタボックとなる以前のユーザーは現在でもイ−パーセルと呼ぶし、社名を聞いても一体何を商売にしている会社か分かりづらいと言う声が多くあった。電子宅配便の会社だということをマーケットに強烈にアピールするために、敢えて会社名と製品名を一致させた」とコンセプトを明確に打ち出していくようだ。

頭脳集団によって開発されたプログラム

 e・パーセルの基礎となる送信通信プロトコルとアーキテクチャは、創業者の小畑氏によって設計されたイーパーセル独自のものである。ソフトウェアの全体像は小畑氏が設計し、プログラムとモジュールは世界プログラミングオリンピックのチャンピオン、国際数学オリンピックの選手権者、IQの高いメンバーが集まるクラブ「メンサ」のメンバーなどといった世界最高水準の頭脳集団によって開発された。その結果、世界中の大企業群で産業利用としての実績を多数持つ。しかし「決して誰にも簡単にマネのできない高い技術に裏付けられた製品力があるからこそ自信を持って提供できるサービス」と北野社長は語る。

<<企業データ>>
96年6月米国ボストンで設立、01年に日本法人を立ち上げた。
06年7月 イーパーセルに社名変更。
資本金 1億1300万円
代表取締役社長 北野譲治(きたのじょうじ)
東京都港区麻布台1−7−2 神谷町サンケイビル7F
http://www.e-parcel.co.jp/JP/welcome/