日本情報産業新聞新春座談会 次世代型IT企業への道筋を探る(1/3)

 情報サービスの市場は長い不況を脱し、この先に待ち構える銀行のシステム統合や番号制度などの大規模案件で盛り上がっているが、大規模な案件を多重下請け構造のもとでシェアしていくという旧来型のSI(システム・インテグレーション)のビジネスモデルは、そろそろ限界点に近づいているといわれている。この問題について、業界関係者も実感は持っていながら、なかなか解決策が見つからないというのが実情だ。そこで今年の新春座談会では、次世代型の環境やビジネスモデルを探りつつ、情報サービス・ソフト業界各社のヒントとなることを提示できればとの趣旨で、次世代型の開発スタイルに取組んでいる3人をお招きし、大いに議論していただいた。

2014 3/31公開

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登壇者(左から)

潟\ニックガーデン 代表取締役社長CEO 倉貫義人氏

潟Wャスミンソフト 代表取締役 贄良則氏

叶略スタッフ・サービス 代表取締役社長 戸田孝一郎氏

 ―まずは自己紹介と問題提起を含めて、戸田さんからお願いします。


  戸田 私は岐阜県でNPO活動を展開し、地域のIT企業をどうやって強化するかというテーマで、一般的な受託開発のソフト会社の経営者さんと正面から向き合ってきました。そこで感じたことは、特に地方には大手ベンダーの下請け、孫請けで、「何々言語のエンジニアが何十人余っているのですが仕事はありませんか」という形の営業方式をとっているところが多いということでした。聞いてみると、ソフト会社といいながらアーキテクトもプロマネもいない。「大手が仕切っているので必要ない」という状態です。経営者にとって、ITの技術やユーザーニーズがどうかはあまり関係なく、いかに大手から流れてくる仕事に対してタイムリーに必要なエンジニアを供給できるかが優先事項で、作業員を出したらお金がもらえるという考えからまったく抜けきれていません。もちろん首都圏でもそういった会社はたくさんありますが、私が地方で取組みを始めたのは、地方の方がそれが顕著で明確に見えるからです。一方、現場のエンジニアと話すとかわいそうに感じます。彼らは様々なことができる能力をもっているのに、会社が取ってくる仕事の形がそういうものだから、能力を活かしきれない。日本のIT業界そのものがテクノロジーに対して意識が薄く、昭和50年代くらいの従来型の構造をずっと引きずっています。倉貫さんはそのあたりの思いをもって独立されたのではないですか。


  倉貫 私はソニックガーデンというベンチャーを経営しているのですが、売上の半分は企業向けのSNSで、そこでは大企業向けにクラウドで提供しています。そして残りの半分が受託ビジネスなのですが、元々私が普通の受託開発の形にどうしても納得がいかず、もう少しいい形の受託開発の形式はないものかと考えて、独自に「納品のない受託開発」というビジネスモデルを考案しました。それについては追々お話していきます。

技術を金にする仕組みに衝撃を受けた(贄)

 贄 私は沖縄の人間なのですが、もともとプログラムが大好きで、中学1年生のときPC8001というコンピューターに出会い、大学でもプログラムばかりしていました。その流れで当時新卒を1千人採用していた、日本で一番大きなソフト会社だったCSKに入社しました。そこで人月モデルを知ったのですが、どうやって技術をお金に換えるかの仕組みがわかってきて、多くの方がそうだと思うのと同様に、私もそこに疑問を感じました。その後、20年経つのですが、当社ではポリシーとしてお客様の顔が見えない案件は避けてきました。下請けや孫請けをしなかった結果、会社として大きくはなれませんでしたが、そういうなかでお客様の顔を見ながら、接点を持ちながらSIをうまくやっていくにはどうすればいいのかと考えた結果、行き着いたのが、ツールという選択肢でした。


  戸田 今のお二方のお話のなかに、キーワードが隠れているように感じました。結局今までは人月というモデルが簡単にお金になったので、そこから抜け出せなかった。ただしユーザー側にも問題があると思っています。コンピューターが登場して企業が情報システムを使い始めた頃は、ITサービスを利用するためにユーザーが自前でハードを購入してソフトも開発し、組織の資産を管理する部門として情報システム部門が生れました。世の中が発展してきてBPOや受託開発というサービスを売る会社がでてきて、その段階でもまだ「所有しなければならない」という考えから抜け切れていなかったのですが、SOAやクラウドが登場してそれが崩れ始めました。ユーザーは利用した分だけのお金を払えばいいというように、ITへの価値観が変わっています。しかし国内では、ユーザーの意識がいまだに所有にこだわっていて、その考えで情報システム担当者がSI会社に発注し、SI会社はお金になるのでそのままにしている。一方でIT予算については、どこにいっても削減されています。ユーザー企業の経営者はITに価値を感じていないからです。言い方はおかしいですが、経営者やユーザーは、IT部門に「これを使うにはこれだけお金がかかる」と脅されているような状態です。経営者は決して納得はしていないのですが、専門家が言うなら仕方ないという、税金のような感覚でお金を出しています。経営者とIT投資の話をすると、妥当だと考えている額に大きな開きがあり、そのギャップをまったく埋められていません。IT部門はこれまで、ERPで何十億のプロジェクトを遂行したというように、規模の大きさを誇る傾向にありました。しかし、今そこが崩れてきています。セールスフォースが何でこんなに売れるのか。企業のIT部門を経由せずに事業部門、ユーザーが使えて、クラウドで運用も考えなくていいからです。そうすると、企業のIT部門は守衛さんの役割となります。経営者はそこにはコストをかけないから、コスト削減としか言ってこない。SI会社もアプローチする場所が異なります。本当のユーザーは誰かを考えるべきです。また、ユーザーの情報システム部はどうやって自分たちの存在感を出すのか、コスト削減しろといわれているのは駄目といわれていることと同じことです。


  ―ユーザーはITの価値がないといっているのですか。


  戸田 そうではありません。ユーザーは、積極的にSaaSなどのアプリを使っています。ITと名前のついた投資を嫌がっているのであって、会社全体としてのIT投資は、逆に増えている可能性もあります。IT産業自体は落ちている産業ではないのです。たまたま、落っこちてくる部分にしがみついている人たちが多すぎるというのが正確な表現なのです。IT予算の一部は、事業部予算に必要な経費として組み込まれているんですね。そうなると、私は倉貫さんの「納品のない受託開発」というモデルは面白いと思います。今までサービスを提供する側に、人月でいくらという判で押したようなパターンがあるわけですが、倉貫さんはサービスを提供する側と利用する側がどういう形で合意するかを考えています。

技術者の活力生かせ 経営者のマインドが重要に(戸田)


倉貫 我々は基本的に直接お客様とやり取りするのですが、システム部門でなく、必ず事業責任者の方とお話しています。ビジネスオーナーの方と直接話をさせていただくと、「欲しいのはソフトではない。ビジネスを成長させるための足回りとしてITがないと成り立たないので相談している」とおっしゃいます。つまり、大事なことはソフトの完成ではなく、ビジネスの成長です。これがシステムの担当者との話となると、機能一覧のチェックリストを持ってきて「この機能をいつまでに仕上げてくれ」という内容になります。情報システム部門の方は、会社としてどれだけ価値があるのかという視点は持ち合わせていません。例えば何十億のシステムができたといっても、その時点で価値はゼロです。
戸田 極端な話、サービスを実現できればソフトはなくてもいいんです。それが、IT部門がからむことによって変な方向に変換されている。そこが、所有の概念が残っているという話につながるのです。そこで私は現在、情報システム担当者に「引き算」の話をしています。今までは機能のてんこ盛りを作らせることが仕事でした。ところが機能の45%ほどは使われておらず、それがメンテナンスコスト増の要因になっています。だからもう機能を減らしましょうと。


 ―ベンダーもそのほうがありがたい。

戸田 しかし、作るほうにしてもそれではあまりおもしろくないはずです。贄さんがお話されたように、相手の顔が見えないソフトを作るというのはエンジニアとしては一番つまらない。岐阜で私が、ウォーターフォールをやっていた技術者にアジャイルを教育しているときにも、最初はユーザーと対峙することに抵抗感を覚えるのですが、一度経験すると喜々として頑張るんですね。本来のエンジニアとしてのプライドに目覚める。そういった人の活力を活かせるようにベンダーも努力すべきだし、ユーザーもそういった企業と手を組んでいくべきです。ソフトを納品したから売上が立つというのでなく、お客様のビジネスにどれだけ貢献したのか、貢献したら貢献した分のお金をもらう形であるべきです。そこを変えるのは、ベンダー側の経営者のマインドです。

 

(日本情報産業新聞座談会次世代型IT企業への道筋を探る 2/3へ続く)

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